24歳彼氏なし仕事なし

人生で今が一番いい時。

 

 

 

2ヶ月前の私はそんなおめでたいことを思っていた。

 

 

 

23歳、独身、大手企業に勤める王子様のような彼氏アリ。

 

 

 

仕事は有名企業の受付嬢。

 

 

 

プライベートも仕事も順風満帆だと信じて疑わなかった。

 

 

 

そんなお馬鹿な私に言いたい。

 

 

 

それはとんだ勘違いだと。

 

 

 

「あなたが高梨 桃(タカナシ モモ)さん?」

 

 

 

上品なベージュのスーツに身を包んだ美女の登場とともに全てはひっくり返されるとも知らず。

 

 

 

幸せ呆け真っ盛りだった私は、男性社員に誉れ高い営業スマイル仮面を即座に身につけて。

 

 

 

「高梨は私ですが…」

 

 

 

ご用件は、と言い終わらぬうちに強烈な平手打ちを食らっていた。

 

 

 

「泥棒猫!」

 

 

 

ドラマでも聞かなくなったような台詞を吐き捨てる彼女を呆然と見ながら。

 

 

 

とにもかくにも呆気なく、私の転落が始まった。

 

 

 

最高の恋人だと信じてた相手が実は妻子持ちだとわかり、無論男はあっさりさっぱり妻子をとり失恋。

 

 

 

そのひと騒動により会社はクビになり失業。

 

 

 

プーでフリーな憐れな女になった私は、もう何度目になるかわからない平手打ちを受けたところで目を覚ました。

 

就活もしないまま、貯金を切り崩しながらの1ヶ月がたった頃。

 

 

 

見かねた親友の持ってきた話を半ば強制的に受諾させられて。

 

 

 

無期限パート生活をスタートさせた私の朝は早い。

 

 

 

けたたましいアラーム音が鳴り出す前にスイッチをオフにした目覚ましが指す時刻は午前5時手前。

 

 

 

悪夢のせいで汗ばんだ体にじっとり張りつくシャツを脱ぎ捨てるとバスルームに直行する。

 

 

 

あの翌日24になった私は恋を失い仕事を失い、女の自覚をどんどん失い中。

 

 

 

「さすがにやばいか」

 

 

 

ぼんやりと鏡に己を映し、裸眼で見てもわかるその形の崩れた眉に一人呟く。

 

 

 

とりあえずはシャワーが先だけど。

 

 

 

コックを捻り、吹き出した熱い飛沫を頭から浴びて頭と体を覚醒させる。

 

 

 

今日も1日が始まった。
からすの行水のごとく手早くシャワーを済ませ、しばらくトリートメントをしてないせいでパサついた長い髪をドライヤーで乾かす。

 

 

 

プリンになってきたし、パサついてるし、いっそバッサリ切ってしまえば、とも思うのだけど。

 

 

 

ここまでのばすのにかかった歳月を思うと躊躇するところだ。

 

 

 

「でも、な…」

 

 

 

以前はブローのために早起きしてた私は、今は乾かすだけ乾かしたら一つに束ねて終了。

 

 

 

やっぱ切った方がいい。

 

 

 

もう何度目になるかわからない結論に至りながら眉を整える今日この頃。

 

 

 

メイクは以前の10分の1の時間で終わる。

 

 

 

下地を塗ってファンデーションを塗って眉を書いて終わり。

 

 

 

未開封のままのワンデータイプのコンタクトを横目にだて眼鏡さながらな茶色いプラスチックフレームの眼鏡を装着して完了。