恋愛しない?

お茶をいれて部屋に戻ると、すでに食事を終えた穂積さんが眠たそうに欠伸をしていた。

 

 

 

「寝たらどうです?」

 

「んー…、そうだな」

 

 

 

眠い、と言いつつも腰をあげる気配のない穂積さんは座れよと言いたげに目で私を促す。

 

 

 

「今日は何を聞きたいんですか?」

 

 

 

私は穂積さんの前側に腰を下ろしながら聞く。

 

 

 

こうしてお茶に誘われた時はだいたい穂積さんから質問責めに合うのが毎度のことだ。

 

 

 

兄弟はいるのかとか、趣味はないのかとか、今まで見た映画で良かったのはなんだとか。

 

 

 

それはいつも他愛ない内容で、とるに足らない話ばかり。

 

 

 

作家は一人机に向かう孤独な仕事だから、単に人寂しくなって話相手がほしくなるのだろう。

 

 

 

まぁ、こんな大きな屋敷に一人でこもっていれば寂しくなるのは当然のことだ。
いつものこと。

 

 

 

そう思って、お茶に口をつけたのだけど。

 

 

 

「モモは、いつまでそんなままでいんの?」

 

 

 

さらりと投げ掛けられた質問は、今までとは違っていて。

 

 

 

ちょっとだけ、動揺した。

 

 

 

「…そんなまんまって、なんですか?」

 

 

 

動揺を隠して淡々と問い返し私はお茶を飲む。

 

 

 

この人は干物になる前の私を知らない。

 

 

 

早織がペラペラ話すわけもないし。

 

 

 

だから、意味がわからないって顔を通す。

 

 

 

だって、こういう話はルール違反だ。

 

 

 

友達でも身内でもないのに踏み込んでいいところじゃないでしょ。

 

 

 

だけど。

 

 

 

「恋愛したくありませんオーラ振り撒いてること言ってんだけど」

 

 

 

何をびびってんの?と。

 

 

 

雇い主は構わずズカズカと私の領域に土足で入ってきた。
「別に…私、そんなオーラ出してませんし。びびってませんけど」

 

 

 

だいたい関係ないでしょ、と言いかけてやめる。

 

 

 

言えば言うだけ肯定してるようだ。

 

 

 

むしろ、もう穂積さんの目には肯定してるように映ってるのかもしれないけど。

 

 

 

「単に干物女って楽なんですよ」

 

 

 

あながち嘘でもないことを言って誤魔化す。

 

 

 

ただ日々をやり過ごす毎日は、刺激がない代わりに心が乱されることも傷つくこともない。

 

 

 

波風なく、ただ静かに平坦に時が流れていくだけ。

 

 

 

「そのきっちり縛った髪と眼鏡、俺には武装してるように見えるけど」

 

 

 

穂積さんはそう言ってお茶をすすり、

 

 

 

「私は恋愛しません、ほっといてくださいって防御してるようにしか見えねぇ」

 

 

 

と、全てを見透かしたようなことを言って私に揺さぶりをかける。