恋愛は堕ちるもの

いきなり眼鏡を奪い取った穂積さんは、だてじゃないのかと呟いて。

 

 

 

「女が傷ついたまんまの姿見て、馬鹿な男はまだ俺のことが好きなんだって喜ぶんだよ」

 

 

 

自分が引きずるほどイイ男だと勘違いするんだ、と。

 

 

 

私のぼやけた視界で、穂積さんが不愉快そうに眉を寄せる。

 

 

 

 

「…それ、イヤ」

 

 

 

 

思わず口をついて出た言葉に、自分自身が一瞬戸惑って。

 

 

 

でも。

 

 

 

「そんなの嫌だ」

 

 

 

噛み締めるようにもう一度口に出すと、なんだか少しだけ視界が開けた気がした。

 

 

 

私はあの人に未練があるわけじゃない。

 

 

 

ただ、失望しただけ。

 

 

 

見る目がない自分に、見抜けなかった自分に。

 

 

 

恋をして、回りが見えなくなった自分に。

 

 

 

バカみたいにはしゃいでたあの頃の無様な自分に。

 

 

 

嫌気がさしたんだ。

 

「ムカツクだろ?都合のいい勘違いされるの」

 

 

 

馬鹿な男を喜ばすんじゃねぇよって。

 

 

 

伸びてきた手が頬を掠め、私の束ねた髪をほどく。

 

 

 

直に触れられたわけでもないのに、胸が大きく波打って。

 

 

 

ぼやけた視界ですら鮮やかに映るその笑みに、ザワリと一際大きなざわめきを感じた。

 

 

 

「でも、とうぶん私は恋愛する気はないですけどね」

 

 

 

口をついて出た言葉はまるで自分に言い聞かせてるように耳に響く。

 

 

 

「まぁ、恋愛はしようと思ってできるもんでもないしな」

 

 

 

クスリと穂積さんが笑って。

 

 

 

堕ちるもんだ、と。

 

 

 

作家らしいドラマチックなセリフを吐く。

 

 

 

「クサイですよそれ」

 

 

 

意思に反して広がるざわめきには気づかないふりして私は冷たく返した。

 

 

今日はたっぷり時間をかけてお風呂に入って、トリートメントしよう。

 

 

 

明日からメイクをして。

 

 

 

コンタクトにしよう。

 

 

 

いつバッタリなんてなっても堂々と知らんぷりして胸を張っていられるくらいでいよう。

 

 

 

中身はまだとうぶん干物でいいけど―――。

 

 

 

そんなことを考えながら、調子の狂った胸をやり過ごす。

 

 

 

「モモ、いいことおしえてやろうか」

 

 

 

私に眼鏡をかけてくれながら、クリアになってく視界で穂積さんがイタズラに微笑む。

 

 

 

あ、なんか嫌な予感。

 

 

 

そう感じた時には、

 

 

 

「そういう素っ気ないところ、男の征服欲掻き立てるって覚えとけ」

 

 

 

などと。

 

 

 

穂積さんはたちの悪い台詞で私を動揺させていた。