いいオモチャ

大粒の雨がフロントガラスで弾けてはワイパーにさらわれていくのを見ながら、テンポの乱れた心拍をやり過ごす。

 

 

 

別にときめいたわけじゃない。

 

 

 

2ヶ月間穂積さん以外の異性とはろくに話すらしてない私には、ちょっと刺激が強かっただけだ。

 

 

 

ただ、それだけのこと。

 

 

 

「干物卒業?」

 

 

 

不意に問われ視線を向ければ、前を向いたまま穂積さんがくすりと笑う。

 

 

 

「化粧しただけです」

 

 

 

卒業はまだしません、と。

 

 

 

私は妙な気恥ずかしさを感じて窓の方へと顔をそらした。

 

「頑固だな」

 

「悪いですか?」

 

 

 

つい突っかかるようなものの言い方をしてしまう自分もなんだけど。

 

 

 

顔を見なくても伝わってくる穂積さんの愉快げな雰囲気が悪い。

 

 

 

わざと私を挑発してるとしか思えないし。

 

 

 

それに、なんか。

 

 

 

ていのいいオモチャにされてる感があるというか。

 

 

 

むしろペットに似た扱いというか。

 

 

 

「悪かないけどさ」

 

 

 

逆に燃える、と。

 

 

 

意味のわからないことを言う穂積さんを今度は私がスルーする。

 

 

 

この人の言動行動にいちいちまともにとりあってたら疲れてしまうから。

 

この天気じゃ洗濯物はできないし、時間内何をしようかと考える。

 

 

 

8時から4時までが勤務時間。

 

 

 

朝、昼、晩の三食の支度、片付け、掃除に洗濯、買い出しも含め私の仕事なのだけど。

 

 

 

一人暮らしだからもともとそこまでの仕事量などなくて。

 

 

 

結構時間をもてあましがちだ。

 

 

 

庭の草引きや水回りの大掃除なんかも最初の1ヶ月でやりつくしてしまったし。

 

 

 

結構手持ち無沙汰だ。

 

 

 

「ホットケーキ食いたいな」

 

 

 

唐突にそんなことを言い出した穂積さんは、

 

 

 

「材料ないですよ」

 

 

 

私がそう言い終わらないうちに、屋敷へ続く曲がり道を無視してアクセルを踏んだ。