綺麗な肌に

 

「…なんでいきなりホットケーキなんですか」

 

「雨が降ってるから」

 

 

 

さらりと穂積さんは言うけれど。

 

 

 

まったくもって意味不明なんですが。

 

 

 

まあ、聞くだけ無駄だから。

 

 

 

ここは聞かなかったことにしつつ、雨の日はホットケーキだと記憶にインプットする。

 

 

 

ほどなくして見えてきた24時間営業スーパーの無駄に広い駐車場に滑り込み、穂積さんはまず入り口前で私を先に下ろした。

 

 

 

私が濡れないようにとの気遣いだ。

 

 

 

こういうことを当たり前のようにやってくれる辺り、紳士だなと思う。

 

すぐ近くに車を停車して、どしゃ降りの雨の中を颯爽と穂積さんが走ってくる。

 

 

 

足が長い分一歩が大きくて、走る姿がなんか絵になっちゃう人だ。

 

 

 

本当に黙ってたらモデルさんみたいなんだけど。

 

 

 

この1ヶ月、知れば知るほど謎が深まってく人だ。

 

 

 

「冷て…」

 

 

 

ほんの数メートルとはいえど、この激しい雨に打たれた穂積さんは結構濡れていて。

 

 

 

私は鞄から取り出したハンカチを差し出したのだけど。

 

 

 

穂積さんはそれを受け取らず、軽く身を屈めて私に拭けと促してくる。

 

 

 

「自分で拭いたらいいじゃないですか」

 

 

 

とか言いつつ。

 

 

 

その濡れた髪に手をやる私は、なんだかんだでこの人のペースに慣らされてしまっているというか。

 

 

 

毒されてるというか。
髪を拭い、雨の滴が伝う頬にハンカチを当てる。

 

 

 

ニキビ跡ひとつない男の人にしては綺麗な肌。

 

 

 

いつもバシャバシャ洗ってるだけなのに。

 

 

 

元がいい人はいいよね。

 

 

 

「ちゃんと帰ったら着替えてくださいね」

 

 

 

湿った服はどうしようもないですから、と。

 

 

 

何気なく視線を上げると、楽しげに細められた瞳に気づく。

 

 

 

「なんですか?」

 

「キスしたらどんな顔するかと思って」

 

 

 

さらりと問題発言をする穂積さんに、私は顔色一つ変えずにハンカチを当てる。

 

 

 

「鬼の形相になりますよ」

 

「そっか」

 

 

 

クスリと穂積さんは笑って屈めた体を起こす。

 

 

 

またいつものくだらない冗談だ。

 

 

 

いちいち引っ掛かってられない。